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大阪地方裁判所 平成5年(ヨ)1159号・平5年(ヨ)1143号 決定

A事件債権者(B事件債務者)

学校法人村上学園

右代表者理事長

村上靖平

右代理人弁護士

一軸浩幸

山根宏

浦田萬里

A事件債務者(B事件債権者)

甲野一郎

右代理人弁護士

中殿政男

柳川博昭

主文

一  A事件債権者の仮処分命令の申立てを却下する。

二  B事件債権者は、B事件債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

三  B事件債務者は、B事件債権者に対し、金三八五万七二五六円及び平成五年一〇月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二五日限り金六四万二八七六円をそれぞれ仮に支払え。

四  B事件債権者のその余の申立てを却下する。

五  申立費用は、A事件についてはA事件債権者の、B事件についてはB事件債務者の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

一A事件についての申立ての趣旨

A事件債務者は、A事件債権者の許可なくして別紙物件目録一、二記載の土地、建物に立ち入りしてはならない。

二B事件についての申立ての趣旨

1  B事件債権者は、B事件債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  B事件債務者は、B事件債権者に対し、平成五年四月一日から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二五日限り金六四万二八七六円を、毎年七月二五日限り金一二四万二四〇〇円を、毎年一二月二五日限り金二〇二万七八四六円を、毎年三月二五日限り金六五万四六一八円を、それぞれ仮に支払え。

第二当裁判所の判断

一まず、以下の事実については、当事者双方に争いがない。

1  A事件債権者すなわちB事件債務者(以下、単に「債権者」という。)は、東大阪高等学校(以下、「東大阪高校」という)等を経営する学校法人であること、

2  A事件債務者すなわちB事件債権者(以下、単に「債務者」という。)は、昭和三三年四月から東大阪高校(旧布施女子高校)の教諭として債権者に雇用され、以来、同校に勤務し、平成五年三月三一日現在では、同校の教頭の職にあったこと、

3  債権者は、平成五年三月三一日、債務者を懲戒解雇し、同日、債務者に対し、その旨を電話により通告し、更にその旨の同日付けの通告書(<書証番号略>)を翌日発信し、同通告書は、同年四月二日に債務者に到達したこと、

4  右懲戒解雇は、(1)平成四年一〇月に行われた東大阪高校二年生の北海道への修学旅行(同旅行においては、生徒は、A団、B団の二グループに別れて行動した)において、債務者は、同旅行引率団長として校務出張を命ぜられたが、その際、同月六日朝に宿泊先の川湯第一ホテル(北海道弟子屈町所在)を出発したA団を見送った後、夕刻に同ホテルに到着する予定のB団が到着するまでの間、万一の突発事故等に備えて、連絡要員として同ホテルに待機するという重要な職務があったにもかかわらず、右職務を放棄して、同ホテルを外出し、弟子屈カントリークラブで1.5ラウンド(約五時間)のゴルフ・プレーをしたこと、(2)債権者は、債務者の右行為を知り、債務者に対し、事情説明を求めたが、債務者は、債権者に対し、ゴルフをした動機、経緯やゴルフ・プレーの時間及び費用負担等について虚偽の報告をしたことの二点を処分理由とすること(債権者主張の懲戒解雇の処分理由が右のようなものであること自体は、当事者間に争いがない。)、

5  これに対し、債務者は、債権者学園の前理事長がかつて競馬法違反で逮捕勾留され罰金刑に処せられた事件に関し、前理事長が右事件の端緒は債務者の密告(投書)によるものであると邪推して、私怨をはらすために、右ゴルフ・プレーを口実に、債務者を懲戒処分としたものであり、右懲戒解雇は無効であると主張して、右懲戒解雇処分後も、東大阪高校に出勤して、依然として、教頭の机に着席し、決裁文書等の教頭の認印欄に押印をするなどしていること、

二そこで、債権者主張の懲戒解雇理由が処分理由として相当であるかどうかにつき判断するに、前記争いのない事実及び疎明資料並びに審尋の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  債務者は、平成四年一〇月に行われた東大阪高校二年生の北海道への修学旅行(同旅行においては、生徒は、A団、B団の二グループに別れて行動した)において、同旅行引率団長として校務出張を命ぜられたが、その際、同月六月朝に宿泊先の川湯第一ホテル(北海道弟子屈町所在)を出発したA団を見送った後、債権者学園やA団、B団に連絡することなしに、同日午前九時ころから同ホテルを外出して、同ホテルから約二〇キロメートル離れた弟子屈カントリークラブにおいて、途中昼食時間を挾んで約五時間、同ホテルの社長の友人である岩谷光男(以下、「岩谷」という。)と伴に、1.5ラウンドのゴルフ・プレーをしたこと(<書証番号略>)、

2  債務者が右ホテルから外出し、弟子屈カントリークラブにおいて、ゴルフ・プレーをした時間は、朝にA団を送り出してから夕刻に同ホテルに到着する予定のB団が到着するまでの間の時間であって、現実には生徒を同伴していない時間帯であるが、右修学旅行における債務者の引率団長としての付添いは、債権者の校務出張命令に基づいてなされたものであり、債権者から債務者に対し、引率手当が支給されている(<書証番号略>)こと、

3  しかしながら、債務者が右ホテルから外出し、ゴルフ・プレーをした時間中には、生徒の人身事故や行方不明などの突発事故あるいは債務者に対する緊急連絡事項等は発生せず、右修学旅行自体は、無事、終了している(債権者によっても、そのような突発事故ないし緊急連絡事項等あるいは修学旅行自体への具体的な支障があったことは、なんら主張されておらず、その疎明もない)こと、

4  債権者は、右ゴルフ・プレーの事実を知るに及んで、債務者に対し、事情説明を求めたが、債務者は、平成五年一月一三日、東大阪高校の戸山隆明校長(以下、「戸山校長」という。)に対し、「平成四年一〇月六日当日は、午前中は付近の牧場を見学し、右牧場において、テレビ番組で有名なムツゴロウこと畑正憲氏に会い懇談した。畑氏に誘われ、断りきれずに、午後から弟子屈カントリークラブにおいて自費で、0.5ラウンド、ゴルフ・プレーをし、午後三時ころ、川湯第一ホテルに帰着した。修学旅行団との連絡方法として、同ホテルから携帯電話を借用して携帯していた。」旨の報告書(<書証番号略>)を提出して報告したこと、

5  債権者は、債務者の右報告に疑問を持ち、平成五年一月二九日、三〇日の二日間、東大阪高校の村上正幸事務長を川湯第一ホテルに派遣して、事実関係を調査したところ、同ホテルの斉藤武雄営業部長(以下、「斉藤部長」という。)から、「平成五年一〇月五日、債務者が旅行業者(東急観光)に対し、明六日、ゴルフに行きたいと要望し、旅行業者が斉藤部長にゴルフの世話を依頼した。斉藤部長は同ホテル社長にゴルフの同行を依頼したが、同社長の都合がつかなかったことから、同社長の友人岩谷が右ゴルフの同行することになった。債務者は、六日午前九時ころ同ホテルを出発し、同ホテルから約二〇キロメートル離れた弟子屈カントリークラブにおいて、右岩谷と伴に、1.5ラウンド(昼食時間を挾んで、約五時間)ゴルフ・プレーをした。債務者のゴルフ・プレー費は、右岩谷が立替え払いをし、同人より同ホテルに請求があり、同ホテルは、他の費用と合算して旅行業者(東急観光)に請求して支払いを受けた。同ホテルには携帯電話はなく、債務者に携帯電話を貸与してはいない。債務者は、畑氏とは、ゴルフ・プレー終了後、同ゴルフ場でたまたま会って、債務者の希望で、帽子にサインを貰っただけである。」旨の報告を受けたこと(<書証番号略>)、

6  右斉藤部長からの報告内容によれば、債務者がゴルフをした動機、経緯やゴルフ・プレーの時間及び費用負担等の点で、債務者の前記説明と食い違うため、平成五年三月三日、債権者学園において理事会を開いて対応を協議して債務者から事情聴取をすることを決定し、その後、債権者学園の理事である一軸浩幸理事(以下、「一軸理事」という。)らが、同月六日、債務者と面接し、債務者から説明を求めたが、債務者は、「牧場で、畑氏と会ったが、ゴルフは畑氏の誘いではなかった。ホテルの厚意によりゴルフの勧めがあったので、ゴルフ・プレーを思いついた。ゴルフ・プレーの時間は、0.5ラウンドをして、次の0.5ラウンドの途中で中止したので、0.7ラウンド位である。プレー費用のうち三千円程度は、自分が支払い、残りは、岩谷氏が結構ですというので、厚意に甘えた。携帯電話はホテルから借用しておらず、ゴルフ場に携帯していない。」旨の報告をしたこと、

7  一軸理事は、債務者の右報告には、斉藤部長からの報告内容と、なお食い違う点があることから、債務者に対し、よく考えた上で、正確な報告書を提出するよう要求したこと、

8  これに対し、債務者は、同月八日、「修学旅行中の平成四年十月六日(火)の顛末書」と題する書面(<書証番号略>)を債権者に提出し、同書面の中で、「川湯第一ホテルの配慮で釣りに行くか、ゴルフに行くかの相談があった。同ホテルの配慮で付近の牧場を見学し、同牧場で畑氏と会った。その後、弟子屈カントリークラブにおいて、岩谷氏と伴にゴルフ・プレーをした。同ホテルに対しては、A団、B団との連絡は絶対に漏らさぬようお願いし、自動車電話又は同ホテルよりゴルフ場に連絡するよう依頼した。キャディーはトランシーバーのような物をもっていたように思う。ゴルフ・プレーは、最初の0.5ラウンドが午後一時三〇分前後に終わり、次の0.5ラウンドは前の畑氏のグループが遅かったため、午後三時半ころ、途中で中止した。費用として、ゴルフ用ソックス、ティ等を購入し、三千円余り支払った。ゴルフ・プレー費については、ホテルで精算してほしいと言ったが、同ホテルの社長がメンバーであり、安くしてもらっていると言われ、厚意に甘えた。」旨の報告をしたこと、

9  債権者は、同月一二日、理事会を開き、債務者の右顛末書における報告についても、斉藤部長からの報告内容となお食い違う点があり、虚偽であると判断し、厳しい処分を課すべきであるとの方針を確認したこと、

10  債務者は、債権者学園の炭谷総務部長から「教頭職を辞任すれば、懲戒免職を免れることができるから、教頭の辞任届けを出したらどうか。」という趣旨のアドバイスを受け、債権者に対し、同月一五日付けで、教頭辞任届けを提出したこと、

11  その後、債権者は、同月一八日、理事会を開き、債務者の処分内容を検討し、後日、一軸理事が債務者に面談し、債務者に対し、依願退職を勧告することを決定したこと、

12  一軸理事は、同月二三日、二五日、三〇日の三回にわたり債務者と面談し、債務者に対し、重要な職務を放棄したこと及び二度の報告は虚偽であることを告げて、学園から任意に退職するよう説得したが、債務者はこれに応じず、先の教頭辞任届けについても、学園の職員として残るという前提がくずれたと主張して、右辞任届けの意思表示を撤回したこと、

13  その後、債権者は、同月三一日、理事会を開き、債務者の処分を検討し、債務者を重大な服務規律に違反するとの理由で、懲戒免職にする旨、最終的に決定したこと、

以上の事実によれば、債務者が川湯第一ホテルから外出し、弟子屈カントリークラブにおいて、ゴルフ・プレーをした時間は、現実には生徒を同伴していない時間帯である(本件においては、債権者から債務者に対し、右時間中、同ホテルに待機するようにとの具体的指示があったとの疎明資料はない)が、修学旅行中の生徒につき人身事故や行方不明等の事故が発生しないように、生徒の安全を配慮し万全を図るべき立場にある引率教員の中でも最高責任者である修学旅行引率団長という職務の特殊性に鑑みれば、債権者から特に具体的に指示がなくても、債務者には、万一の事故や緊急連絡等に備えて、宿泊ホテルにおいて待機していることが、引率団長の派生的業務として要求されているというべきであり、したがって、債務者が右ホテルから外出し、ゴルフ・プレーをした時間は、執務時間の性質を有するものと認められる(これに対し、債務者は、右ホテルから外出し、ゴルフ・プレーをした時間につき、全くの自由時間である旨主張するが、前記認定に照らして、採用できない。)。

したがって、債務者は、B団が到着するまでの間、万一の事故や緊急連絡等に備えて、宿泊先の川湯第一ホテルにおいて、待機しているという職務があったというべきであり、それにもかかわらず、債権者学園やA団、B団に連絡することなしに、午前九時ころから同ホテルを外出して、同ホテルから約二〇キロメートル離れた弟子屈カントリークラブにおいて、途中昼食時間を挾んで約五時間、1.5ラウンドのゴルフ・プレーをしたのであるから、債務者に職務違反行為があったことは明らかであるというべきである(それゆえ、債権者が右ゴルフ・プレーに関し、事実関係を調査し、債務者に対しても、事実関係の報告を求めるのは、むしろ当然のことというべきである。)。

そして、債務者が、債権者に対して、なした右ゴルフ・プレーに関する報告については、前記のように、ゴルフ・プレーをした動機や経緯、ゴルフ・プレーの時間やラウンド数、経費負担などの点で、債務者の報告自体その都度、変遷しており、川湯第一ホテルの斉藤部長からの報告と食い違うことが認められ、それも単なる記憶違いではなく、故意に虚偽の報告をした部分も相当あることが認められ、高等学校の教頭職という地位に鑑みれば、右の虚偽報告は、決して軽視できないものがあるというべきである。

三しかしながら、そもそも、懲戒解雇は、労働者の雇用関係を消滅させてしまうものであって、使用者が労働者に対して行う懲戒処分の中でも、最も重いものであるから、労働者が規律違反をしたと認められる場合であっても、右規律違反の種類・程度その他の事情に照らして、解雇を相当とするような場合でなければ懲戒解雇は許されないというべきであり、仮に、使用者が右相当性を逸脱して労働者を懲戒解雇処分にしたときは、当該解雇は、懲戒権を濫用したものとして無効であるというべきである。

かかる見地から検討すると、疎明資料によれば、債権者学園においては、懲戒処分としては、軽い順に、「戒告(始末書をとり将来を戒める。)」、「減給(始末書をとり、労働基準法第九一条に定める範囲内において基本給の減額を行う。」、「停職(三か月以内の期間を定めて職務に就くことを停止し、その間の給与は支払わない。)」、「免職(予告期間を設けず即時その職を免ずる。)」の四種類が定められている(<書証番号略>)ところ、本件においては、債務者は、前記のように引率団長として万一の事故や緊急連絡等に備えて、宿泊ホテルにおいて待機しているという職務があったにもかかわらず、債権者学園に無断で、同ホテルを外出し、同ホテルから約二〇キロメートル離れたカントリークラブにおいて、途中昼食時間を挾んで、約五時間、1.5ラウンドのゴルフ・プレーをしたという職務違反行為をしたものであるが、右ゴルフ・プレーは、通常の授業時間に行われたものではなく、また、前記認定のように幸いにも右ゴルフ・プレー時間中には、事故や緊急連絡事項等は発生せず、右修学旅行自体は、無事、終了していること、債務者が執務時間中にゴルフ・プレーをしたのは、本件で問題となっている一回だけであるのみならず、債務者は、昭和三三年に債権者学園に教諭として雇用され、昭和五八年に東大阪高校の教頭となり、本件懲戒解雇処分に至るまで、大過なく勤務している(債務者に、右ゴルフ・プレー以外に非違行為があったとは、債権者によっても、なんら主張されておらず、その疎明もない)こと等の事実を勘案すると、右ゴルフ・プレーという職務違反行為により、戒告、減給、あるいは場合によって停職処分にするは格別、右ゴルフ・プレーの一事をもって、債務者を懲戒解雇処分にするのは相当であるとはいえない。

また、債務者の債権者に対する虚偽報告の点も、教職(とくに教頭)にある身としては、あるまじき行為ではあるが、もともとの職務違反行為は、右ゴルフ・プレーという懲戒解雇処分にするのは相当でない行為であること、また、少しでも自己の身を庇おうとするのが人間の情であることに鑑みれば、右虚偽報告の点を殊更、重大視して、債務者を懲戒解雇処分にするのも相当でないというべきである(債権者は、ゴルフ・プレーの費用を業者負担とさせた点も問題とするが、<書証番号略>によれば、ゴルフ・プレー費用は、二二〇五九円であり、また、債務者によれば、ホテルに帰って、ゴルフ費用の精算をホテルに申し出たところ、「社長のメンバーコースでもあり、格安にしてもらっているので、ご心配は無用です。」とホテル側に言われ、厚意に甘えたと弁解しており、右弁解どおりとすると、債務者の右行為が懲戒解雇にしなければならないほど悪質であるとまではいえない)。

以上のとおりであるから、本件懲戒解雇処分が債務者主張のように、債権者学園の前理事長が私怨をはらすために行われたものであるかどうかにつき判断するまでもなく、本件事案の下では、債権者の債務者に対する懲戒処分は重きに失し相当であるとは認められないので、本件懲戒解雇は無効であるというべきである。

四B事件の保全の必要性

債務者は、本件懲戒解雇処分により、収入の途を断たれたものであり、賃金の仮払いを受けることが必要であるが、疎明資料によれば、債務者は妻と長女(家事手伝い)を扶養しており(<書証番号略>)、本件懲戒解雇処分を受けるまで債権者から、毎月給与を受ける(平成五年二月分の給与は、税や社会保険等の控除前が六四万二八七六円で、同控除後が四七万〇八八九円である。)他、賞与として夏期手当(平成四年七月の夏期手当は、所得税控除前が一二四万二四〇〇円で、同控除後が九九万三九二〇円である。)、年末手当(平成四年一二月の年末手当は、所得税控除前が二〇二万七八四六円で、同控除後が一六二万二二七七円である。)及び年度末手当(平成五年三月の年度末手当は、所得税控除前が六五万四六一八円で、同控除後が五二万三六九五円である。)を受けていることが認められ(<書証番号略>)、他方、生計費として、恒常的に一月当たり約四四万八〇〇〇円を支出し、また、個人年金や生命保険の保険料や住民税のため、ボーナス払いあるいは年払いとして、年に約二五二万円を支払い、その他に数年に一度、自動車検査等のため約二三万円を支払っていることが認められる(<書証番号略>)。

以上によれば、債務者の賃金仮払い仮処分申請は、平成五年四月一日から本案の第一審判決言渡しに至るまで、、毎月二五日限り金六四万二八七六円の仮払いを求める限度で保全の必要性を認めることができる(なお、既に支払期が途過した平成五年四月分から同年九月分までの給与相当分の金員の仮払いについても、保全の必要性を認めることができ、その合計額は三八五万七二五六円である。)。また、健康保険の維持等のため、地位保全の必要性も認められる。

しかしながら、債務者の求める夏期手当、年末手当及び年度末手当等の賞与相当分の金員の仮払いについては、一般に賞与は、経営状態や労働者の勤務成績等を考慮して支給されるものであって、過去に支給された賞与の額が当然に将来においても、支給を保障されるという性質のものではない上に、債務者の右賞与額は相当に高額であり、前記の毎月の給与相当分の金員の仮払いがなされれば、債務者の生活を維持するには十分であること等を勘案すると、本件事案の下では、債務者の、求める右賞与相当分の金員の仮払いについては、保全の必要性が認められないというべきである。

五次に、債権者が債務者に対し求めた土地・建物立入り禁止仮処分命令申立事件(A事件)につき判断する。

疎明資料及び審尋の前趣旨によれば、債権者は、東大阪高校を経営する学校法人であり、右校舎(別紙物件目録二記載の建物)及びその敷地(別紙物件目録一記載の土地)の所有権を有し、右校舎、敷地につき管理権を有することが認められる。したがって、債権者は、右所有権及び管理権に基づき、部外者だけのみならず、必要とあらば、学校職員や生徒に対しても、右校舎、敷地の立ち入りを禁止し、制限する権利を有するというべきである。

しかしながら、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、債務者は、本件懲戒解雇処分後も、東大阪高校に出勤して、依然として、教頭の机に着席し、決裁文書等の教頭の認印欄に押印をするなどしていること、本件懲戒解雇処分後、新しく別の教頭が任命され、東大阪高校に着任し勤務に就いていること、債務者が決裁文書等の教頭の認印欄に押印するため、戸山校長(現副校長)が債務者の押捺した認印に斜線を入れて抹消し、新教頭に押印をもらっているなど多少、校務が混乱していることが認められる(<書証番号略>)が、他の一般教職員は、債務者の右出勤に異を唱えることはなく(債務者は、債権者学園の教職員組合には所属していないが、<書証番号略>によれば、右教職員組合は、本件懲戒解雇処分の撤回を債権者に求め、債務者に同情的な意見を表明していることが認められる。)、債務者の出勤によって、暴力事件や喧騒が生じたり、あるいは、右認定以上に債権者学園の校務等に格別の混乱を来しているとの疎明はない。以上に加えて、文書の決裁等における前記の多少の混乱も、もともとは、債権者が債務者に対して行った懲戒権の濫用による解雇に端を発していることを併せて考えれば、債権者の求める右校舎及び敷地の立ち入り禁止仮処分命令申立事件(A事件)については、保全の必要性は認められないというべきである。

六結論

以上の次第で、債務者のB事件の申立ては、前記四に述べた限度で理由があるので、右限度でこれを認容し(なお、事案の性質上、債務者に担保を立てさせないこととする)、その余の申立ては保全の必要性が認められないからこれを却下することとし、また、債権者のA事件の申立ては、保全の必要性が認められないからこれを却下することとし、申立費用の負担については、民事保全法第七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官源孝治)

別紙物件目録一、二<省略>

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